東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)51号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三十四年十月十七日、名称を「磁気資料記憶装置」とする発明について、一九五八年(昭和三十三年)十一月七日米国において特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願をしたところ、昭和三十八年三月八日、拒絶査定を受けたので、同年七月十三日、これに対する抗告審判を請求し、昭和三八年抗告審判第五五二号事件として審理されたが、昭和四十五年十月二十七日、「抗告審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その騰本は昭和四十六年一月十九日原告に送達された(なお、出訴期間は、同年五月十九日まで延長)。
二 本願発明の要旨
長形導電性基体の表面上に電鍍された強磁性被膜を有し、同被膜が基体の縦方向軸線に対して傾斜せる易磁化方向を有するものにおいて、上記被膜は機械的捩り構造を有しないで結晶が実質的に一つの向きに揃うことによつて傾斜せる易磁化方向を有することを特徴とする磁気資料記憶装置
三 本件審決理由の要点
本願発明の要旨は、訂正された明細書および図面の記載からみて、「長形導電性基体の表面上に電鍍された強磁性被膜を有し、該被膜が基体の縦方向軸線に対して傾斜せる易磁化方向を有する磁気資料記憶装置」にあるものと認める。もつとも、特許請求の範囲には、「長形導電性基体の表面上に電鍍された強磁性被膜を有し、同被膜が基体の縦方向軸線に対して傾斜せる易磁化方向を有するものにおいて、上記被膜は機械的捩り構造を有しないで結晶が実質的に一つの向きに揃うことによつて傾斜せる易磁化方向を有することを特徴とする磁気資料記憶装置」と記載されているが、これを完成された磁気資料記憶装置としてみたとき、ここにいう「被膜は機械的捩り構造を有しないで結晶が実質的に一つの向きに揃うことによつて」は、製造方法に関する事項であり、構造を限定する上で格別の意義をもつものとは認められないので、本願発明の要旨は上記のとおりと認定する。しかして、当審において発した拒絶理由は、これを要約すれば、本願発明の要旨は上記のとおりであり、本願発明にかかる磁気資料記憶装置は、従来より公知のらせん形磁化容易軸を有する強磁性被膜を備えたツイスタ記憶装置(たとえば、昭和三十三年一月六日特許庁受入れの米国雑誌ザ・ベル・システム・テクニカル・ジャーナル第三十六巻第六号一、三一九頁から一、三四〇頁参照)と相違するものとは認められないので、本願発明は、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第四条第二号に該当し、同法第一条の発明と認めることはできない、というにある。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、以下に説示するとおり、本願発明の要旨の認定を誤り、その結果、本願発明は公知のツイスタ記憶装置と相違するところがないとした点において判断を誤つたものというべく、取消を免れない。すなわち、本願明細書および図面の発明の詳細なる説明の項の記載によれば、同項には、従来トイスタと呼ばれる装置は、共通の心線となるある長さの非磁性導電線と心線の外表面上に押し出し成形された可飽和強磁性材料の同軸層とからなり、心線と強磁性被覆とは同時に伸長され、かつ、捩られ、また、その両端部は、この装置の作動期間に固定位置に維持されるものであり、伸長と捩りとの作用を施された直接の結果として、磁性被覆の磁化容易な方向が心線の長手方向軸線に実質上平行な方向から、心線の全長にわたり、ねじの場合におけるねじ山のように、同軸の実質上らせん状方向に配向されること、装置の作動期間に両端部を強固に固定される必要のないいわゆる事前捩りトイスタを製造するプロセスにおいては、導電性材料の細長い基材は、まずその長さの方向の軸線に関し捩りを加えられ、しかる後に強磁性被覆がその最外方表面上に電着され、その後にその両端部が解放され、かつ、被着ずみ基材が捩られる以前のような、初めの状態に接近せしめられること、この種の事前捩り型装置は、それまでのものを改良したものであるが、製造前、製造期間あるいは製造後のいずれにおいても、外部から機械的に加える捩り歪の必要を完全に排除することが非常に望ましく、本願発明の主な目的の一つは、このような従来のトイスタ型記憶装置の利点の全てを有するが、その製造前、期間あるいは後のいずれにおいても機械的に発生される捩り歪の印加を必要としない磁気資料記憶装置を提供するにあり、本願装置は、強磁性電着物を表面に配置された細長い導電性の基材を備え、かつ、右電着物が機械的に印加される捩り捩り歪を実質上有せずして、上記基材の長手方向軸線に関し、斜めにされた上記電着物の磁化容易方向を生成することを特徴とするものであることが記載され、さらに、本願装置を製造するための電着プロセスにつき、基材上に電着物を形成すべき水性電解溶を例示されていることが明らかであり、これによれば、本願発明においては、従来のツイスタ型装置の被膜では、これに機械的捩りが与えられることにより磁化容易な方向が心線の長手方向軸線に対しらせん状方向となるに対し、捩られないで、前述の電着プロセスにより形成されるような被膜の結晶の配向によつて磁化容易な方向が右のようならせん状方向となる、としているものであるとみることができる。
以上のような本願明細書の記載の趣旨および当事者間に争いのない機械的捩りを与えることによつてらせん形磁化容易軸を有する強磁性被膜を備えたツイスタ記憶装置が本願優先権主張日前公知であつた事実を勘案して、当事者間に争いのない本願明細書の特許請求の範囲の記載をみれば、その記載中の「被膜は機械的捩り構造を有しないで結晶が実質的に一つの向きに揃うことによつて傾斜せる易磁化方向を有する」とは、被膜が機械的に捩られた構造、すなわち被膜が機械的に捩られた状態においてその磁化容易な方向が基体の縦方向軸線に対し傾斜せるらせん状方向に配向されているような被膜の構造ではなく、被膜が機械的に捩られることなくして、被膜を形成する結晶の配向によつて磁化容易な方向が右のようならせん状方向となつている構造の被膜であることを意味するものと解するのが相当である。
以上のとおり、本願発明の要旨は、前掲特許請求の範囲の記載どおりと認定されるべきものであり、したがつて、これと異なる本願発明の要旨を前提として、本願発明は従前公知のツイスタ記憶装置と相違しないとの理由により、本願を拒絶すべきものとした本件審決の判断は、その点において、違法といわざるをえない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)